みみ(耳)
耳(みみ)の病気
耳(みみ)は、解剖学的に外耳、中耳、内耳の3つの場所に分かれ、中耳は鼻と耳を繋ぐ管である耳管で繫がっています。耳の病気は、この3カ所の何処に異常があっても、「聞こえが悪い」、「耳が詰まる」「耳が痛い」という主訴になる可能性があります。内耳は「音を聞く」蝸牛だけでなく、「バランスを取る」前庭も連結している大切な感覚器官ですので、内耳の病気は、「めまい」を引き起こすこともあります。顔の動きを司る「顔面神経」は、側頭骨(中耳と内耳がある頭の骨)の中を走行しています。従って、中耳や内耳の病気が原因となり、「顔面神経麻痺(顔の動きが悪くなる病気)」が起こる可能性もあります。いろいろな可能性が考えられるので、「あれ、耳がいつもと違うな」と感じたら、早めの耳鼻咽喉科受診をお勧めします。
対象となる耳の病気と治療法
外耳の疾患
- 耳垢栓塞
文字通り「耳垢(耳あか)」が外耳道(耳の穴)に充満した状態です。耳掃除をしようとして、あるいは耳栓やイヤホンをする時に、逆に耳あかを奥に押し込んだりした場合に、鼓膜の真上まで、耳垢が堆積してしまうことがあります。耳用の鉗子で除去しますが、除去できない場合には、点耳薬を処方して、溶かして除去することもあります。
- 外耳炎
外耳道(耳の穴)の皮膚は薄いため、耳かきや綿棒で触りすぎる、あるいは耳栓やイヤホンで刺激しすぎると、炎症を起こしてしまいます。その結果、痒みや痛みを強く感じます。「外耳炎」と診断された場合には、点耳薬や軟膏、かゆみ止めを処方しますが、とにかく「触らないこと」が基本です。
中耳の疾患
- 急性中耳炎
「急性に発症した中耳の感染症で耳痛、発熱、耳漏を伴うことがあるもの。」が急性中耳炎の定義です。高頻度に小児(15歳以下)が罹患する上気道炎です。原因となる菌は、急性副鼻腔炎の原因菌と同じです。即ち、鼻の感染が耳管を経由して中耳に炎症を引き起こす病態です。治療は、ペニシリン系抗生剤、セフェム系抗生物質の内服が中心となります。鼓膜切開も重症度(痛み、発熱など)に応じて選択肢となります。
- 滲出性中耳炎
急性炎症を伴わず、中耳に滲出液がたまっている状態です。痛みを伴わないため発見しにくいですが、放置すると鼓膜が陥没したり、萎縮したりするため、将来的に難聴の原因になるので、適切な治療が必要です。
中耳炎が長引いて起こることが大部分の原因です。背景に、耳管の機能不全による中耳換気障害が存在し、急性中耳炎が長引いて起こることが大部分です。上咽頭のアデノイド肥大が原因であることもあります。
耳管機能に影響する鼻咽腔の炎症を取り除くため、マクロライド系抗生剤(クラリスなど)の少量長期投与と粘液調整薬(ムコダインなど)も併用されます。
保存的治療の効果がない場合は、外科治療が必要になります。1)まず、鼓膜切開を行います。2)次に、鼓膜切開を繰り返す、あるいは鼓膜の陥没がひどい場合は、鼓膜チューブ挿入術を施行します。
- 慢性中耳炎
慢性中耳炎は、前述した中耳炎を繰り返すことによって中耳の粘膜や骨が慢性炎症を起こし、耳管の機能も低下することから、反復するあるいは持続する耳漏(耳だれ)と難聴を起こす中耳炎です。鼓膜中央部に穿孔を認める慢性穿孔性(単純性)中耳炎と鼓膜の上方や辺縁に陥凹を認める真珠腫性中耳炎の二つに分類されます。耳漏については、生理的食塩水で耳を洗浄する、あるいは抗生剤あるいはステロイドの点耳薬を使用し、慢性炎症を抑える保存的治療を行います。しかし、慢性穿孔性中耳炎は中耳粘膜、真珠腫性中耳炎は中耳粘膜にプラスして耳小骨を始めとする骨の慢性炎症も伴います。これらの炎症は、中耳から内耳に波及する可能性もあり、難聴の悪化を引き起こす可能性もありますので、手術適応と判断した場合には、耳科手術専門病院を紹介します。
内耳の疾患
- メニエール病
精神的なストレスや疲労、睡眠不足が原因となり、内耳が浮腫んでしまう「内リンパ水腫」という状態になってしまい、耳鳴り、難聴、耳閉感と回転性めまいを繰り返してしまう病気です。一般的な治療法は、内耳の浮腫を取る薬(イソバイ)や漢方薬(五苓散、柴苓湯)、血液の流れを良くする薬(アデホス)や内耳の神経を保護するビタミンB12に抗めまい薬を併用します。
- 突発性難聴
精神的なストレスや疲労、睡眠不足が原因となり、内耳の血流障害、自己免疫性内耳炎、ウイルス感染などを引き起こし、内耳機能が低下することによって、突然、片側の耳に発症する病気です。難聴の程度は様々で、耳閉感や耳鳴り、時にはめまいを伴うこともあります。治療のポイントは、早急に開始することです。どんなに遅くても2週間以内に開始しないと、治療効果が極端に低下します。これは、前述した理由により、音の受容器である外有毛細胞が脱落してしまうためと推察します。現代医学の力をもってしても、現状では脱落した外有毛細胞を再生することはできません。治療法は、2ステップ有ります。まずは、ステロイド(プレドニン)を高容量から低容量へ漸減しながら内服させ、血液の流れを良くする薬(アデホス)や内耳の神経を保護するビタミンB12を併用するステロイド漸減療法です。この方法に効果が無ければ、ステロイド(プレドニン)を直接鼓室内に注入する「ステロイド鼓室内注入法」を4回施行する方法をとります。
- 感音難聴
感音難聴を大きく分けると、1.先天性難聴、2,後天性難聴に分類されます。ここでは、後天性難聴について述べます。後天性難聴は、前述したメニエール病や突発性難聴の場合には、突然発症するので、気付くことが多いのですが、加齢性難聴は、徐々に難聴が進行するため、本人は気付きにくいことが多くあります。従って、会話の中で、雑音下で聞き取りにくい、大勢の中では聞き取りにくい、後ろから話しかけられても気がつきにくい、相手の話しが理解しづらいなどの症状があれば、加齢性難聴が進行している可能性があります。加齢性難聴の特徴は、高周波音が聞こえにくくなるので、こもって聞こえる、響いて聞こえる、耳鳴りがするため聞き取りにくいなどの症状がでます。しかし、日本語は何となく前後関係から理解できてしまう言語なので、難聴があるにも関わらず、放置してしまうことが多くあります。家族から「最近、テレビのボリュームも大きいし、聞き取りが悪くなったのでは?」と指摘がある場合には、まずは聴力検査をしてみましょう。当院では、純音聴力検査と語音聴力検査の両方ができます。その結果によって、聞こえに関する生活指導について、説明します。その後に、軽度難聴の方には、AirPod2あるいは補聴器、中等度難聴以上の方には補聴器の装用をお勧めします。
- 耳鳴り
耳鳴りには、1.難聴の無い耳鳴りと2,難聴が原因となる耳鳴りがあります。前者は、無難聴性耳鳴といって、ストレス、疲労あるいは更年期等の様々な要因によって、脳細胞が過剰に興奮することによって起こります。後者は、聴力の高低バランス、左右バランスの違い、音のエネルギー不足を中枢の脳細胞と末梢の聴神経が認識して、中枢と末梢の両方で過剰興奮が起こることが原因と考えています。耳鳴り治療は、当院の特徴でも有るので、別項目で説明します。
- めまい
みみの病気(内耳性)かつ難聴を伴わないめまいには、(1)前庭神経炎、(2)良性発作性頭位眩暈症(BPPV)があります。前庭神経炎は、平衡感覚をつかさどる前庭神経が、種々の原因により高度に障害され、突然激しい回転性めまいが起こる病気で、めまい症状は長時間持続し、その間に定方向に眼振が出るのも特徴です。一方、良性発作性頭位眩暈症(BPPV)は、平衡バランスを感知する内耳の一部である耳石器にあるカルシウムの粒(耳石)が、加速度を感知する三半規管に紛れ込む病気です。起き上がったとき、頭の向きを変えたときなどの体動時に回転性のめまいを感じます。その際に特徴的な眼振を確認出来ます。